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情報社会に適合する貨幣と金融

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 情報社会に適合する貨幣と金融

1.はじめに
 現代の経済は、国内経済でも世界経済においても、グローバル金融資本主義システムの下にあり、株式や為替や各種先物の市場変動、自国や他国の金融政策などの金融要因によって製造業やサービス業などの実体経済を含む経済全体が強い影響を受ける一方、実体経済の側が金融を含む経済全体に影響を与えることは、製品やサービスに関する革新的なイノベーションや自然災害などを除けば、ほぼ無くなっているというのが実情である。
 貨幣や金融は元々、実体経済の血液としての存在ないし実体経済を円滑に機能させるための存在であり、実体経済の活動に随伴して機能するもの、実体経済によって制御されるはずのものである。しかし、実際にはグローバルな金融資本の挙動によるバブルと金融不況の繰り返しによって実体経済が振り回されているというのが実情である。
 このような事態はどのようにして生起しているのか、このような事態の発生を無くするにはどうすればよいかを明らかにするため、そもそも貨幣や金融とは何であるのかということを改めて検討し、さらに将来の情報社会における貨幣や金融はどのようなものとして存在するのかということを検討してみたい。
2.貨幣
 貨幣とは、交換手段、価値尺度手段、蓄蔵手段、支払手段の4機能を有するものと定義されているが、表面的な性質・機能を列挙しただけで本質的でない。
 貨幣は、交換時の価値を体現した表示価格を保持し続け、何とでも何時でも交換できるという性質を有するものとして成立している。この性質に基づいて、上記4つの手段として機能することになる。
 要するに、貨幣は、価値を交換時の価格に固定化して保蔵することで価値の流通を図る媒体であり、そのままでは蓄蔵することはできない価値を貨幣の形にすることでその価格を固定して蓄蔵可能にするという特性を持つものである。
 この貨幣の性質を担保するため、元来は貨幣自体が価値を持つもの、例えば金などの貴金属で形成されていた。しかし、貨幣流通が普遍化するのに伴って、表示価格の価値が保証されることを前提として、自身が持っている価値とは離れ、かつその表示価格は保持するがその価値は変動する可能性があるものとして流通するようになる。
 そうして、財(サービス・情報を含む)がその時の価値に対応する価格の貨幣と交換され、交換された貨幣はその後元の財の価値変動とは関係なく、その表示価格に対応する時々の価値を持つものとして通用することによって、財が貨幣との交換(対価の支払)によって円滑に流通する。かくして、貨幣は財の交換・流通を円滑にするという機能を果すことになる。
 このように貨幣が価値流通媒体となっているシステムが一旦成立すると、貨幣は本来的に媒体であるということが隠されて物神的に自存化し、自足的に価値を保蔵しているものとして現前することになる。貨幣が媒体であれば必ず存在するはずの源泉が問われることはなく、源泉に価値実体がなくてもそれ自体価値を持っているものとして流通するようになる。
 そうして、莫大な貨幣を蓄蔵した経済主体が最初は貨幣の運搬等の取り扱いの煩雑さの解消のために発行した証書が、その蓄財を信用の源にして貨幣の代用として使用されるケースが発生し、ここに貨幣が信用創造される端緒が認められる。
 また、国家などの統治機関が、その統治領域内で貨幣を媒介とした商品流通が円滑に行われるようにするため、貨幣の価値実体、即ちその量目と品質が均一になるように統制したり、必要に応じて貨幣の品質の統一を図るため、国家の管理下で貨幣が発行されるようになる。
 さらには、国家などの統治機関が貨幣発行権を独占することで、信用創造された貨幣の流通を強制することが可能となり、金などの貴金属の不足を補うためや財政不足を補うために、貨幣を金などの貴金属に間接的に結び付けること、すなわち流通させる貨幣を実体的な価値物から切り離して紙幣にするとともに、その貨幣を金などの貴金属(価値物)と兌換することを保証することで信用創造された兌換紙幣が発行されるようになる。
3.金融
 物財の生産に当たっては設備・資材のために資金が必要であり、資金・貨幣を調達する必要がある。生産が比較的小規模の場合、自らの手元の資金を活用して資金需要を満たすことができる。さらに商品流通で莫大な資金を保有するようになった豪商などは、その資金を使って自ら展開している事業を拡大したり、他人にその資金を貸し付けて生産させたりすることによって自らの大量の流通商品を確保するようになり、その状態が社会的に広がることで商品生産が増大し、社会的分業が発展することになる。
 社会的分業が発展し商品生産が飛躍的に増大すると、それに対応して生産手段に一層多大な資金が必要となる。そこで、交換によって受け取った対価の使用を遅らせることで各経済主体に蓄蔵されている貨幣を社会的に広くかつ専業的に集め、それを他者の生産資金として提供し、生産によって得られた利益の一部の分け前を貸付資金の利子として要求する金融とその機関としての銀行システムが本格的に登場する。
 また、例えば冒険的な航海のように事業の成就によって巨万の富が得られる可能性がある一方で極めて高いリスクを伴うような事業を行うに際して、その事業資金を複数の投資家が分担し合うことで調達した例を端緒にして、リスクのある事業資金を調達するのにその一部を分担していることを証する株式を発行して投資を募る株式投資が登場する。
 また、既に事業を行っている会社が事業の拡大や新たな事業の開始などのために資金を調達するため、社債を発行して資金を得る債券投資が登場する。そして、これら株式投資や債権投資のための証券市場が登場する。
 また、貿易事業等における不測事態の発生に対処できるように予め保険料を支払うことで発生した損失を補填する保険システムなども登場する。
 このように貨幣経済を条件に社会的分業を行う限り、その発展・展開に伴ってこのような各種の金融システムが登場することになる。
4.貨幣の変態
 貨幣が金などの貴金属との兌換を前提に発行されている場合には、その信用創造による貨幣発行量には自ずから限界があり、金の貯蔵量に対応する限界まで貨幣発行量が増えると、それ以上貨幣発行量を増やすことはできないが、そのように貨幣発行量を増やすことができない中で、例えば輸出急増などで経済がさらに拡大して生産量が増大する一方、それに対応して貨幣供給量を臨機応変に増やすことができないと、当然貨幣不足のために貨幣価値が増加して生産物価格が下落し、売上低減、資金調達困難になって生産が停滞することになる。さらに深刻なのは、負債をかかえて、即ち投融資を受けて生産するシステムが普遍化している場合には、売上が減る一方で負債償還の負担が重くなることで企業活動の維持が困難になり、価格低下、生産縮小、所得低下のデフレスパイラルによる恐慌が生じることになる。そのため、少なくとも生産の拡大に対応して貨幣量を増加させる必要がある。
 その一方で、貨幣が上記のように価値実体の源泉がなくても価値を持つものとして物神的に自存化して現前するということが普遍化していると、観念的には国家権力の権威と保証によって、たとえ貨幣の価値を担保する金との兌換を停止したとしても安定して貨幣を流通させることが可能となっていた。
 かくして、世界恐慌から第二次世界大戦の終戦までの激変の後、国家の信頼性を根拠にして国家の貨幣発行機関である中央銀行が貨幣を創出して流通させ、その貨幣流通量を制御する管理通貨制度が現実的に施行されることになった。中央銀行による貨幣発行は、具体的には、政府が国債を発行し、その国債を買い入れ、その対価として貨幣を政府に供給することで行われる。また、銀行が預金以上に貸し付ける信用創造によっても貨幣は供給されるが、その貨幣供給量を中央銀行が制御するシステムとされている。
 中央銀行による具体的な貨幣供給量制御に関しては、準備預金制度による預金準備率と、公定歩合と、市場公開操作が伝統的な調整手段として知られている。準備預金制度は、預金者保護を主眼としたもので、預金などの一定比率(準備率)以上の金額を中央銀行の当座預金口座に預け入れる義務を課したもので、準備率調整で貨幣供給量を調整し、景気調整を行うものであるが、1991年以降使用されていない。公定歩合は、規準割引率と規準貸付利率の調整で貨幣供給量を調整するものであるが、金融の自由化で存在意義が消失したため止めてしまった。市場公開操作は、中央銀行が手持ちの国債や手形を市場で売買することで、公定歩合に代えてコールレート(無担保コール翌日物)をコントロールして貨幣供給量を調整しており、その上限は公定歩合の規準貸付利率で限定されている。
 この管理通貨制度は、国家の信頼性を根拠にしているので、当然のことながら各々の国家ごとに実施されることになる。そして、国家毎に管理された通貨間の為替は、国際的な協定(スミソニアン協定)によって各国が決定した為替レートを維持することによって安定的に維持され、その協定の信頼性は最終的には世界経済に決定的な影響力を持っている米国のドルが金との兌換を保証することによって保たれていた。
 しかし、戦後の各国の経済復興によって米国の世界経済に対する圧倒的な支配力は徐々に低下して行き、また情報化の進展に伴って世界経済が商品の輸出入システムから国境を越えた生産システムの構築へと進展し、各国経済の結び付きの強化による世界経済の一体化が進んで行く中で、米国の戦費調達による巨額な財政赤字と貿易赤字のためにドルと金の兌換の維持が困難になり、ついに1971年に金兌換停止が宣言されるに至った。このニクソンショックと呼ばれるドルの兌換停止によって貨幣は金などのそれ自体として価値を持つ価値物との結び付きが最終的に解除され、為替は変動相場制が主流となり、世界各国の全ての貨幣は各国の管理通貨制度のもとで各国の独立性と国際的な協調により相互に浮動する状態となった。
 このように世界的には管理されていないことで未完成であるとは言え、各国毎には完成された真正の管理通貨制度下での貨幣は、国家=中央銀行による無利子の債務証書であり、かつ債務の存在が実質的に有名無実化したものである。こうなると、貨幣は名目価値担持情報ないし担持体として機能する、特殊な情報、即ち複製不可、同時に並存不可で、私的所有され、所有の移転によって移動する情報であると言え、現実的に価値物あるいはそれに結び付けられたものから、信用に基づく特殊な情報ないし情報担持体に変態を遂げたのである。
 この貨幣の変態によって生じた最初の事件は、産油国が原油価格を一方的に値上げした1973年のオイルショックであり、その結果当然のことながらコストアップインフレと不況、すなわちスタグフレーションを一旦発生するが、先進国が貨幣の変態によって可能となった金融緩和などにより巨額の貨幣増発を行って景気のてこ入れをし、産油国が集積した貨幣をその運用のために先進国に還流することによって、結局新しい動的平衡状態に移行してそれなりに安定することになった。かくして、貨幣を増発せざるを得ない条件があれば、貨幣を増発しても波乱的調整過程を経て結局それに対応した新しい金融の平衡状態に移行することが現実的に認識された。
5.金融の変態
 5.1 金融の変態とは
 このような貨幣の変態により国家の判断で必要に応じて自在に貨幣を増発することが可能となったことで、貨幣の主たる機能が財の生産流通を円滑にする媒体としての機能から金融の運用媒体としての機能へと変化し、金融の変態をもたらすことが可能となった。
 すなわち、貨幣が価値物に結び付いていた時代の金融は、物財やサービスなどの財の提供の対価として獲得されて貯蓄されたものを社会的分業のもとで大規模な財やサービスの生産に必要な資金として貸し付けることを業務とする銀行業務が主たるものであったが、貨幣が国家の債務証券となり、価値物との直接的な結び付きから解放され、原理的には国家の信用が確保される限り際限なく貨幣発行が可能となったのに対応して、貸付や投資などの債権のリスク回避を対象としIT(情報技術、ICT(情報通信技術)を含む)を駆使して作り出された金融派生商品、すなわち金融債権を証券化してリスク分散した金融商品を新たに作り出し、さらにその金融商品のリスクをヘッジする金融商品を作り出すなど、情報処理により高配当・低リスクの実現を謳った金融派生商品を自己増殖させて金融資産を増加させるとともに、その金融資産の増加によって景気を煽ることでさらに貸付や投資を増大させるという、金融資産を自己増殖させる金融システムが構築されるに至ったのである。
 また、生命保険や医療保険などの保険システムも、その資産を安定的な債券投資で運用していたのでは所期の運用成果が得られない状況に追い込まれていることでこの金融システムで運用せざるを得なくなり、また一般大衆の預金や年金基金システムも同様にこの金融システムで運用せざるを得なくなり、否応なくこの金融システムに引きずり込まれて金融システムの自己増殖の促進に寄与することになる。
 さらに、各国の管理通貨制度が独立しているため、各国通貨間の為替が浮動的で少しの撹乱要因によっても変動するため、その変動を対象とした投機が行われることで為替相場も大きく不安定に変動し、そのような投機に対するリスクヘッジのための金融商品と金融市場も膨大化することになる。
 かくして、貨幣の変態によって貨幣が直接的には実体経済の制限を受けることなく独自的に供給制御可能となったことにより、ITによるリスク管理技術を用いてリスクを証券化することで、低リスクで高リターンの投資が可能であるかのような幻想を振り撒き、投機を安全な投資として大規模に推奨することで投機を煽り、金融経済の飛躍的な拡大膨張を図ることが可能な金融の変態をもたらし、金融のキャンサー化と暴走をもたらすことになったのである。
 しかしながら、その一方で、貨幣の変態によって原理的に貨幣が無制限に発行可能になったとはいえ、実際には増発された貨幣の存在形態である金融資産のおおもとは、やはり物財やサービスなど、実際に役立つ財を生産する実体経済にあり、その拡大・成長を伴わないとその上に肥大化させて組み上げられた金融資産がうまく運用できなくなってしまい、金融システムが破綻することになる。
 すなわち、金融の変態により生成された金融システムは、実体経済に底部で結び付いた状態でその上に構築されたバーチャルなシステムであると言え、この意味でのセミバーチャルな金融経済システムは、自己増殖する過程はバーチャルに増殖する特性を持ちながら、一旦その金融システムが不安定になったり、破綻したりすると、貨幣を媒介として運用されている底部の実体経済に対して深刻な影響を与え、経済システム全体の破綻を来たすことになるという特性を持っている。変態した金融は、貨幣の情報化を前提としたバーチャルな資本の自己増殖システムであるが、最終的には実体経済の成長を基底的前提としているため、実体経済の成長が伴わないと金融システムの破綻を来たすことになるのである。
 しかるに、先進資本主義国の国内経済では、既にその実体経済が成熟して飛躍的な拡大・成長は不可能であるため、当然のことながら金融システムの自己増殖はすぐに行き詰まることになる。すなわち、情報化の進展の影響で実体経済における財の価値低下速度が格段に速くなっており、それに伴って投下資本に対する利潤率は著しく低下しているため、資本主義的な利潤を確保し、資本主義に不可欠な「経済成長」を達成するためには、貨幣の変態によって可能となった過剰な貨幣供給によって「景気」を煽る必要があり、金融を膨張させる金融政策を採らざるを得なくなっている。その結果、実体経済が停滞した状態で金融経済だけが膨張し、金融経済を牽引する一部の富裕層が富の大部分を所有することによって結局経済全体の需要は伸びず、実体経済の停滞は解消されない経済システムとなる。その結果、当然のことながら上記のような金融システムは、その暴走状態が実体経済からの制約を受けることで速やかに破綻し、バブルと金融破綻を繰り返すことになる。
 しかし、その一方で情報化の進展に伴って資本主義経済はグローバルに展開しており、先進資本主義国の資本で発展途上国の経済開発を行うことによって、発展途上国の経済の拡大・発展を自らのものとして取り込み、その経済成長に基づいて金融資産を増殖させることがそれなりに可能となっており、破綻をある程度の期間繰り延べ可能となっているのである。
 かくして、以上のような金融の変態は、社会の情報化に伴って発展したIT技術による金融派生商品の開発とグローバル化によって存立しているものであり、情報社会へ移行する過程であると言える。
 5.2 金融変態の歴史過程
 次に、以上のような金融の変態を現実に推し進める金融政策が採られざるを得なくなった、より具体的な歴史過程を見て置くことにする。
 ニクソンショック以前の、金-ドル本位制下の制限された管理通貨制度でかつ各国経済の独立性がある程度確保されていたことで有効性を保持していたフォード・ケインズシステムは、ニクソンショック以後の貨幣の変態によって、より直接的にはオイルショックと言われる中東産油国による原油価格の急激かつ極端な値上げと投機によるコストプッシュインフレと、産油国の輸出規制とそれに乗じた投機による生産財の不足及び物価高による需要低迷による生産減少とによって一時的ではあっても激しいインフレと生産停滞が発生し、かつそのような事態の解消に関してケインズ政策が有効に作用しなかったことによってインフレと生産停滞状況が並存するスタグフレーションを生じることとなった。
 すなわち、オイルショックによるコストプッシュインフレと生産抑制が進行する中で、その急激なインフレに対する対策として金融引締めによる需要抑制策が採用されたことによって、インフレの昂進は抑制することはできたが、当然のことながら経済循環を維持するために、ある程度のインフレ傾向は許容する程度の需要抑制しか行うことはできず、そのためインフレ下で、生産が低迷したままになり、インフレ下で高い失業率を来たすスタグフレーションを生じた。
 さらに、オイルショック直後の激変期を乗り越えた後もなかなかスタグフレーションから完全に抜け出すことができなかった。
 というのは、ケインズ政策は、不況から脱することができない原因は有効需要の不足にあるとして、実体経済に直接働きかけるように需要を無理に作り出すものであり、その資金は国の借金である国債を発行して確保することになるが、国債を中央銀行が直接消化することは悪質なインフレの発生を防止するという観点から禁忌とされているので、市中消化により貨幣を確保して実体経済に供給することになる。よって、市中に眠っている貨幣の活用や有効需要の増加による生産拡大に伴う信用創造によって貨幣は随伴して自動的に増加するものとしており、直接貨幣供給することでマネーストックを増加させるのではなく、需要増加と生産拡大を循環させることで経済を拡大させて不況を脱する政策である。
 しかし、一般的に貨幣の変態により金融経済の拡大が実体経済の拡大より大きくなり、金融経済が肥大化している状態で一旦不況に陥ってしまうと、巨額の債権が毀損して過大な負債の重圧で苦しんでいる状態となっており、活用可能なマネーストックが十分に存在している状態ではあり得ないため、その状態で国債の市中消化を行うと利子率が上昇し、生産を拡大するための投資資金が新たに供給されるような状況にはなく、したがって有効需要増加政策を行ってもその波及効果は発揮されず、所謂クラウディングアウトを生じることになる。かくして、実際に有益な財やサービスを生産する実体経済の活性化・経済成長に結びつかず、消尽されるだけになり、インフレ下で生産が低迷したままで高い失業率が維持されるスタグフレーションを脱することができなかったのである。
 そこで、さらに多額の国債を発行するとともに、銀行が中央銀行から資金提供を受けてその国債を購入することで、国債を間接的に中央銀行が消化することによって貨幣供給量を増加させることになるが、そうした場合景気が回復する前にまずインフレ率が上昇してインフレを加速させることになる。一方、インフレ対策として金融引締めを行った国では、不況が一段と深刻化することになる。このようにして慢性的なスタグフレーションに悩まされるようになったのである。
 このような状況下で、スタグフレーションの背景にはフォード・ケインズシステムの大きな政府による有効需要管理政策、社会福祉制度に基づく巨額な財政支出及び賃金の下方硬直性によるインフレ促進要因があるとして、規制緩和、競争促進及び企業活動の活性化を促すための減税による経済成長政策と、減税資金の確保のための民営化と福祉削減による小さな政府とを振りかざす新自由主義政策が提起されることとなった。その新自由主義の旗のもとでは、規制緩和や減税による企業活動の活性化もあるが、主として金融の自由化政策、すなわち銀行と証券の垣根を取り外して金融の変態を可能とする政策と、それを推進するための金融緩和政策、すなわち不況時にはとにかくマネタリーベースを増加させることで、市中のマネーストックを増加させ、金利の低下と資産価格の上昇を図り、資産収益の増大による需要拡大だけでなく、資産効果とバランスシート効果によって投資心理を煽り、その投資を金融経済に誘引することで金融経済の膨張を図り、金融の変態化に邁進することによって資本の拡大再生産の再興が図られたのである。
 このような金融の変態の進行に伴って経済指標的には経済の拡大による景気の好調が達成される一方、規制緩和・競争促進により金融経済に直接関連しない階層の相対的貧困が進み、社会福祉の切捨てによって貧困化が進み、経済的格差が大きくなる一方、サブプライムローン等によって貧困層をも金融経済に引き込んで金融バブル経済を進めたのである。しかし、そのバブルは遂に破綻し、リーマン・ショックにより世界的な金融危機をもたらすことになった。
 しかし、グローバル金融資本主義に代わるシステムは未だ経済社会の内部に懐胎されていず、バブル崩壊に対してはそれ以上の金融破綻を防止するため異次元の公的資金を投入して救済することにより、金融資本を保護する一方、バブルの再発を抑制するために金融の変態を保持しつつその暴走をできる限り抑制するように規制を強めて金融の拡大を制御しようとしている。しかし、金融の拡大やバブルの醸成を抑制すれば、金融資本主義の再生産が停滞し、経済全体がデフレ状態ないし停滞状態となってしまう。
 かくして、現状はバブル破綻後のデフレというより、金融資本主義システムの機能不全により慢性的な停滞状況となっており、それに対してさらなる金融緩和によってマネタリーベースを過剰に増加させることでインフレ、特に資産インフレを引き起こし、景気を回復させようとしているのが現状である。
6.提案された種々の貨幣システム
 変態化して膨張した金融はバーチャルに運用されるものであるにもかかわらず、そこで用いられている貨幣が同時に実体経済を動かすものであるため、経済全体を金融が振り回すようになっている。しかし、金融がバーチャルに運用されるものであったとしても、嘗ての日本の株式市場のようにほぼ100%実体経済の運用と切り離されてさえいれば、たとえ金融バブルが破綻しようと、そのバブルゲームに参加している人々の間だけの問題で済み、実体経済には殆ど影響を与えないで済むことになる。このように投機的金融の浮沈に左右されることなく実体経済が運用され、安定して豊かに暮らすことを可能にする実体経済に寄り添った貨幣・金融システムが現在求められるとともに、情報社会に向けてその実現可能性が高まるものと思われる。
 国家による管理通貨制度下で変態化した貨幣に対抗し、その不安定性を回避することを求めて種々の貨幣システムが提案されている。古くは、シルビオ・ゲゼルが貨幣発行後、時間の経過とともに減価して行き、所定期間後には失効する消滅貨幣によって貨幣に流通媒体としての機能のみを持たせ、金利を抑制する貨幣システムを提唱したが、バイエルン革命の中で革命政府によって一時的に実現しそうになった後再び実現することはなかった。また、F.A.ハイエクは、ケインズに対抗して貨幣発行を非国営化し、複数の機関が貨幣システム(名称、単位、運営方法等)を自由に設計して貨幣を発行し、貨幣間の自由競争を導入し、国家間でも銀行業の自由な活動を規制する障壁を設けず、貨幣間の変動相場制を導入すれば、貨幣価値が安定すると提唱したが、国家に受け入れられるはずもなく、独自に地歩を築く契機も持ち合わせていないため現実の貨幣システムとしては実現される可能性は低い。また、地域共同体の相互信頼性に基づいた、地域内で限定的に有効な地域通貨が種々提案され、自由発行されて地域限定でそれなりに広がりをもって活用されているが、所詮は地域を越えて普遍化し、現行貨幣システムに取って代われるものではない。
 また、情報社会化に適応してインターネット網を用いた仮想通貨も種々提案され、その中でビットコインのようにグローバルに一定の広がりを持つようになったものが現われた。ビットコインとは、「ナカモトサトシ」なる人物によって提起されたもので、P2P型分散的ネットワーク上で「暗号学的ハッシュ関数」によるデータ圧縮と「公開鍵暗号系」によるデジタル署名とを利用して成立しているデジタル通貨であり、インターネット上のサイトである「ビットコイン・コミュニティ」によってルールとアプリの設定・管理が行われており、まさに情報社会が生み出した貨幣である。貨幣供給を国家が管理するのではなく、「採掘」によって貨幣が供給されるようにしたもので、その「採掘」とは鉱物(金)の採掘に代わって、貨幣の信頼性を維持する所定のルールに基づく作業を最先で成功することをバーチャルな「採掘」とし、その「採掘」作業によって貨幣を得られるようにすることで貨幣を供給するシステムである。
 ビットコインの本質は、貨幣としてのビットコインの流通がトレース可能に登録されているデータ登録貨幣ということにあり、貨幣の流通データがトレース可能に登録されるとともに絶えず検証されていることによってビットコインシステムの信頼性が確保されており、それによってビットコインが価値媒体として承認されて貨幣として通用するものである。
 しかし、ビットコインはネットを利用して安価に送金できることにより弱者の国際的送金に利用される一方、既成通貨に対する値上がりを見越した投機が主たる取引となっているだけで、グローバルな経済活動を担う通貨に成長する可能性は低い。というのは、貨幣供給量に上限が設けられ、ある程度流通すると希少性を持ち、既存通貨に対して値上がりすることで投機的となり、恣意的に発行量がコントロールされ、実体経済に寄り添った貨幣システムになるものではないからである。
7.新たな貨幣システムの提案
 7.1 新たな貨幣システム(M貨幣システム)とは
 理想的な貨幣システムは、システムに対する信頼性が確保されるとともに、流通媒体としての機能を十全に果すために、貨幣供給量が価値取引量に対応して即時的ないし高い応答性をもって増加・減少すること、すなわち価値取引量の増減に対応した貨幣量が流通に乗るとともに、実体経済の活動に必要な資金が容易に供給されるように貨幣供給が可能な状態にあるということである。
 そのための一案として、取引時にその取引相手との相互信頼に基づいて自由に貨幣が発行されるとともに、その貨幣は取引高に応じてプラスの正貨とマイナスの反貨が同時に発行され、トータルでは常にゼロになるようなデータ登録貨幣からなる貨幣システムが考えられる。ある意味、貨幣は発行されるのではなく、取引に際しての相互信頼に基づいて生成されるものと言った方が良いかもしれない。また、貨幣は、価値の流通時に生成される媒体であるということから考えると、トータルでゼロになるのは当然であるとも言える。
 ここで、貨幣単位として、プラスの正貨としてMoney Unitを短縮した[Moun(モン)(Mと略記)]、マイナスの反貨としてCounter Money Unitを短縮した[c-Moun(シーモン)(cMと略記)]を提案し、以下この略記を使って説明する。
 このMとcMを用いた貨幣発行システムにおいては、具体的には、インターネット上に貨幣発行サイトを設立し、貨幣発行・清算アプリを提供する。各経済主体は、貨幣発行サイトにアクセスし、アプリをダウンロードし自らを特定するデータを登録することで口座(account)を開設する。アプリは、口座毎にそれぞれ出納表と貸借対照表を持ち、取引相手はその口座の出納表及び必要に応じて貸借対照表の過去の履歴と現在高を入手できるようにしたシステムである。
 このように正貨M発行時に反貨cMが発行されるようにするとともに、取引データを登録・開示するシステムを構築することで、国家の信頼性に基づいて中央銀行が発行・管理する現行の貨幣とは異なって、条件を満たせば誰でも貨幣発行が可能となり、かつ取引主体間の相互信頼とその連鎖により貨幣の信頼性を確保することができる。
 実際の取引過程においては、原理的には、各経済主体が財を入手し、サービスを受けて対価を支払う際に、その都度その価値に対応した価格の貨幣を発行して支払うもので、その際に正貨Mと反貨cMが対で生成され、Mを支払うと同時にcMを保有することになり、そのことが自己の口座の出納表に記録される。そして、取引前に自己の出納表に支払額以上のMを保有している場合には直ちに相殺されて残額のMが出納表に記録され、取引相手はその状態を直ちに確認することが可能である。そうするのは、取引相手の出納表の残額が、支払後にcMを相殺した結果あるいは取引前から既にcMを保有している状態であった場合、支払われたMが失効してしまう可能性があるために確認は必須であるからであり、その場合貸借対照表をチェックして取引相手がcMの保有に耐えられ、信頼できる相手であるかを確認し、取引を成立させるか、止めるかを決断することになる。
 また、財やサービスの生産を行う生産主体においては、新たに価値を生産して市場で販売すると、購入者によって新たに増加したMが発行され、同額のcMが発生することになり、生産主体においては増加したMを保持し、更なる生産ための財やサービスの購入対価として市場の取引相手に支払われて市場を流通し、購入者は発生して保持しているcMを、市場の他の取引相手から獲得したMで相殺することになり、経済全体としてはその生産の拡大に応じて増加した貨幣量が流通することになる。
 一方、支払によって発生するcMを相殺しても口座のMの保有が維持される場合には、口座から即時払ができるため、カードによる即時払システムを適用することができて便利に使用することができる。そこで、口座にMを保有し、カードによる即時払が可能な状態を維持するために、所定の機関に、口座に対してMを振り込んでもらったり、Mの支払によって保有することになったcMを引き受けてもらうことが考えられ、ここにそれを専門的に行う金融機関、即ち貨幣発行・貸付機関としての銀行が成立することになる。
 なお、一般的な事業法人であっても、事業を行う過程で取引に伴う支払によって口座にcMが残る状態になると、実質的に貨幣発行機関として機能しているが、その場合には上記のように貸借対照表によってそのようなcMを保有できる信頼性を認められるだけの各種資産などを保持しているかどうかが取引相手によって検証されることになる。
 7.2 M貨幣システムにおける為替
 次に、Mと他のシステムの貨幣、例えば現行通貨であるドルとの交換は、財やサービスの売買と同様であり、ドルを買う時はMを発行して支払い、ドルを得るとともに発生したcMを保有するMで相殺し、逆にドルを売る時(Mを買う時)はドルを支払ってMを得、相手がドルを得るとともに発生したcMを保持するMで相殺することになる。交換レート、即ち為替レートは、例えばM発行サイトが、ある基準時点で現在の基軸通貨であるドルを表示通貨として、ドル、ユーロ、円などの主要通貨の適当に設定した単位の価値をそれらの通貨による貿易額に応じて重み付けを行ってMの為替レートを算出する通貨バスケット方式で決定して宣言し、以降一定期間(例えば24時間)毎に演算して公表し、そのレートで取引を行うことを推奨するだけで、一切の通貨政策なしで安定した価値基準を維持することができ、いずれ主要通貨の一つになれば独自の価値基準が確立するとともに、M貨幣システムは経済の実体的活動に応じて貨幣が発行されるシステムであるので、変動相場制に移行しても他の通貨の変動に影響を受けず安定した価値を維持し続けることができる。
 7.3 M貨幣システムにおけるセキュリティー
 M貨幣システムは、インターネット網を用いたデータ貨幣のシステムであるため、そのセキュリティーの確保が極めて重要な課題であるが、現在の金融機関などの各種重要機関のインターネット上のサイトと同様に情報通信技術の向上に対応してセキュリティー対策の一層の高度化を図って行くことでセキュリティーは確保可能であろう。その際、M発行サイトは、口座(account)の基礎的情報に関しては、暗号化処理してデータセンターに保蔵するとともに、複数のコピーを複数個所のデータセンターに分散させて保蔵することでセキュリティーを確保し、取引データに関しては、各口座の何れかの登録パソコンあるいはそれに付帯させたデータ保蔵媒体を各取引毎に複数選定して暗号化処理したデータを分散格納し、取引発生時のアクセスに伴って必要なデータをサイトに取り出すようにすることで取引データに対するセキュリティーを確保し、さらにこれらのデータセンターやデータ保蔵媒体に対する不正なアクセスや改変が無いかを絶えず自動的にチェックするようにすることでシステムのセキュリティーを確保することができる。このようなM発行サイトの役務に要するコストは、取引毎に極めて少額の手数料を賦課することで容易に確保することができる。
 7.4 M貨幣システムにおける金融
 銀行は、多くの経済主体からMを預金として預り、多額のMを保有することで、自ら自由にMを発行してそれを貸し付けることが事実的に認められている機関であり、Mの発行額に対応したcMを保有するとともに、cMを引き受ける見返りとして利子をつけてMの返済を受ける権利、即ち債権を持つことになる。
 このように銀行は、cMを保有しながら貨幣を自由に発行できる機関であるが、その信頼性を確保し、破綻の恐れを回避するためには、自ずからcMの保有には限度がある。例えば、資本金に相当する自己保有Mと預金された預かりMの和のK倍より多くならないこと(即ち、cM≦K(自己保有M+預かりM))が条件であり、Kは利子率に規定される係数である。
 このM貨幣システム下における銀行の特性は、貸付先が返済不能になれば、不良債権となって保有しているcMを自己消化する必要があり、現行のように不良債権処理によって帳簿上の資産が毀損するとは言え、所詮は信用創造によって一方的に作り出して貸し付けた貨幣が単に返ってこなくなるだけであるのとは異なる。逆に、Mを借り受けた経済主体の側は、利子をつけて返済する債務を持つとともに、万一銀行が預かりMの返済要求に応じられない可能性が生じて破綻した場合には、借り受けが無かったことになり、借り受けたMが直ちに失効して消失し、借り受け残額相当のcMを保有した状態になり、別途にMを調達しなければ自らも破綻し、破綻するとM貨幣システムから排除され、以後Mによる清算が不可能になる。銀行側は、貸し出しに伴って保有しているcMは消失し、その状態で清算されて預かりMの残額が比例分割返済されることになる。
 この厳しさが結果的に貨幣システムの信頼性を保証することになるとともに、債権を証券化して金融資産を創造し、金融バブルを発生させる途を遮断することになる。即ち、現行の貨幣システムにおける債権・債務関係では、貨幣自体が相互信頼によって成立しているのではなく、国家の信頼性に基づいて自存的な価値担体として扱われており、債権を集合・分割しても貨幣に対する権利が自立的に存在しつづけるため、大数の法則を適用して証券化が可能となっているが、M貨幣システムでは金銭に係る債権・債務は相互信頼に基づく貨幣現象と融合しており、両者を切り離すことができないため、すなわち債権者は債務者に対して貸し付け責任をcMの保持によって負うという形で貨幣関係を介して切り離し不可能に結合しており、また債務者も債権者の破綻に対して借り受けたMが無かったことになるという形で責任を負うことになり、債権者の変更には債務者の許諾を必要とすることになるため、債権の証券化は不可能であり、M貨幣システムは金融バブルを発生させることができないシステムである。
 M貨幣システム下での金融機関としては、上記銀行の他には、証券は本来的に不要である一方、それに代わって保険が重要となる。M貨幣システムに適合する基盤的経済活動形態は利益非配分という意味での非営利企業活動であり、M貨幣システムが普遍化し、証券が不要となるには非営利企業が主流となることが必要である。そうして、資金提供に関しては適正な利子の受取を条件に資金を提供する銀行と、ベンチャー事業に果敢に投資するエンジェル投資機関とその資金流通の円滑化を図る事業資金保険を提供する保険とが主要な金融機関となる。ここで、利益非配分ではベンチャーに対する資金提供がなくなり社会の発展を阻害するという懸念が言われることがあるが、それは杞憂である。例えば、ベンチャーに対するエンジェル投資を促進する保険として、事業失敗時に投資資金に対して保険金を支給するようにするとともに、その運営資金として事業が成功した時に配当の代わりに事業利益の一部を後払い保険料として支払うエンジェル投資保険の設立が好適なものとして考えられる。かくして、投機的な資金を求める証券に代わって事業資金保険がその機能を果すことになり、その保険システムは、保険料を差し引いてあるいは後払いで資金提供することで実現可能である。その際、情報はリスク低減作用を持ち、情報処理の高度化によって事業資金保険を扱えるように保険が変態することになる。
8.おわりに
 現在はキャンサー化した金融の暴走を抑制するために規制を強化する一方、金融資本の拡大再生産をなんとか確保しようとして異次元の金融緩和を行って貨幣を過剰供給している、というのが現状認識としては正鵠を射ていると思われるが、この二兎を追うような微妙な政策が成功するには、結局のところ、そこで生じてくる矛盾をグローバルに見た社会的弱者にしわ寄せし、犠牲を強いざるを得ないことになる。
 本稿は、このような課題を解決できる貨幣・金融システムとしてM貨幣システムを提案したものである。このM貨幣システムをその実現可能性を予感しつつ提案することができたのは、ネット上のデータ登録貨幣であるビットコインが実際に有意に取引され、そのシステムがグローバルに信頼性を得て稼動していることによる。国家の信頼性に基づいて中央銀行が発行している貨幣とは全く異質な、国家権力に依拠しない貨幣がグローバルに流通するほどに社会の情報化が進展していることを如実に示している。
 M貨幣システムが経済的に有意に稼動し始めるのは、過剰に膨張した金融バブルが破綻し、深刻な金融危機が発生して主要国の中央銀行発行の既存貨幣が不安定に暴落・暴騰を繰り返し、それらの貨幣に対する信頼が損なわれたときである。信頼を損なった既存貨幣に取って代わってM貨幣システムが本格的に展開するためには、それ以前に実際にM貨幣システムが立ち上がっている必要がある。M貨幣発行サイトが立ち上げられ、相当数の経済主体によって口座が開設され、経済全体から見れば僅かであってもMによって経済取引が行われている状態を確保しておくことで、既存貨幣の流通が混乱した状態でもその影響を受けることなくM貨幣システムによって安定した取引を確保できることを実際に示すことができ、それによってM貨幣システムが一挙に受け入れられることになると思われる。M貨幣システムは、システム自体の本質はグローバルな展開が可能で、むしろそれが本来的なシステムであるが、M貨幣システムは経済主体間の相互信頼に基礎を置いていることから、当初はおそらく地域的なつながりに基づくローカルな貨幣として採用されることで立ち上げられ、その後取引関係を、特に非営利企業との取引を介して流通範囲が徐々に広がってゆくものと考えられる。