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「新たな地域コミュニティ」の構築

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 「新たな地域コミュニティ」の構築
   -地域プラットフォームの形成と地域通貨の発行による-

1.はじめに
グローバルな経済競争に曝されることで、地場産業が淘汰されたり、労働力確保のために地方に進出した大企業の工場が海外移転したり、地方経済活性化のために造成された工業団地に誘致された工場が廃業したりして地域経済及び地域社会が衰退してきたという状況に対して、相変わらず、市場経済のもとでそのメカニズムに乗ったまま、新たに工場・企業誘致、大型店舗の誘致・進出認可、地場産業に対する補助育成などの対策を行うことによって地域再生・地域おこしを行おうとしてきた。しかし、一部才気と工夫で地場産業を興した成功例が認められるものの、総体的には最早有効な対策ではなく、それらの対策はことごとく失敗しているというのが現況である。
本稿は、基礎自治体において「新たな地域コミュニティ」を形成することによって、地域活性化を図るとともに、グローバル金融資本主義によってもたらされる可能性が極めて高い世界的かつ深刻な金融危機が発生しても、地域社会の生活が致命的な被害を受けるのを抑制できるようにしようとするものである。
2.新たな地域コミュニティ
「古いコミュニティ」は、農業生産を行う生産コミュニティと一体的に結び付いた、統治・行政としても機能する地域コミュニティであって、①封建的な身分観念と因習に基づいた濃い人間関係の強制、②そのような人間関係に基づいた対面合議による情報共有と支配、③互酬による財とサービスの流通によって存立していたコミュニティであった。
この「古いコミュニティ」は、工業生産に基づく市場経済化(自由経済)と自由・人権思想の普遍化に伴ってバラバラな個人に分解され、コミュニティは崩壊・絶滅し、不在状態となっている。そのため「公」が人びとから自立して人びとを管理・統治するものとして外化され、「私」と「公」が対抗的に対置される関係となり、「公」の統治機関(官)としての自治体や国家の機能が増大化してその行政機構に過大な負荷がかかることになった。また、「私」と「公」をつなぐのは、自治体では首長(行政長)公選と代議制(地方議会)であるとされているが、形式に流され、形骸化している。議員は自らの選挙地盤の狭い地域の利害代弁者として計画の細部で地域エゴを通すという役割しかしていない。
「新たな地域コミュニティ」は、自由経済下でばらばらになっていた一定地域の市民が情報化の進展によって相互の関係性に基づいて密に連携することで再生されるコミュニティであって、①自由で対等な人間関係、②ネット(SNS)による情報共有、③地域内での相互扶助・協働、④地域内での財とサービスの循環確立、⑤それらを円滑にするための相互信頼に基づく流通媒体としての地域通貨によって成立するコミュニティである。
地域コミュニティとは、「地域に住む皆さんがそれぞれ持っている資源・能力を互いに融通しあって暮らしを豊かにしましょう。」ということが基本的な精神であり、そこで楽しく生活し(生活が楽しいということが重要)、子供を健やかに育て、老人が生き生きと活躍する場となるものであり、そのような場が機能するように環境を整える事業を行う組織体である。そして、地域住民(コミュニティ成員)は、個々人の自主・独立を確保するため、全人的かつ蜜な関係ではなく、趣味・娯楽・教育・福祉などあらゆる部面において相互に多重・多数の関係を持つことによって、「天網恢恢、疎にして漏らさず」のような疎でかつ密な関係を形成することになる。
また、地域コミュニティを構築するとは、地域社会における協働・相互扶助システムを再構築することである。ここでの協働・相互扶助とは、食・農・教育・文化・伝統などの分野に限らず、さらに財・サービスの生産と流通をも含む社会的活動全般にわたる広い分野を含む広い意味の協働・相互扶助であり、そのような広範な協働・相互扶助システムの下で、典型的な相互扶助システムとされる地域の福祉システムも幅広くかつ円滑に運用できることになる。
このような地域コミュニティを構築するには、地域プラットフォームの構築と地域通貨の利用が極めて有効であり、両者が地域コミュニティという車の両輪となって地域コミュニティを構築・運用することができる。
3.地域プラットフォーム
地域コミュニティの構築に利用する地域プラットフォームとは、人々が集まって相互作用を引き出す協働の場となるものである。新しい地域コミュニティに適合する地域プラットフォームは、ウェブ空間に形成したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用して構築することが可能であり、それが極めて有効である。SNSは「ウェブ空間」を利用してその利点を活用しつつ、顕名化による相互の「信頼」によって「ウェブ空間」におけるリターンの外部流出やフリーライドなどの「闇」を克服するものである。SNSを利用した地域プラットフォームは、一方向の地域メディアとは異なり、双方向の「ウェブ空間」を利用しながら地域内外の人や資源を巧みに糾合して、地域の課題解決や地域づくりに対する人々の協働を促す場となるものであり、地域プラットフォームを活用して地域課題に対処している例がすでに多く知られている(例えば、八代市の「ごろっとやっちろ」、富山県の「富山インターネット市民塾」、三鷹市の「シニアSOHO普及サロン・三鷹」など)。
SNSと地域(コミュニティ)の関係は、地域SNSによる「地域情報化」という観点から2004年以降はやったが、地域という制約に伴う議論のマンネリ化、利用者数の伸び悩み、ビジネスモデル化できず経済的持続性の課題などから沈滞してしまったというのが現実であるが、それは「Facebook」や「ツイッター」以前の時代のことである(文献⑪参照)。近年は、地域SNSの構築に要するコストは、「Facebook」や「ツイッター」などの無料のSNSを利用することで安価に形成することができるようになっている(具体的には例えば企業向け「Facebook At Work」 のコミュニティ版の提供が期待される)。
地域プラットフォームは、地域住民が自らの名前が明らかになる状態で、情報を提供し、課題や問題を提起し、意見を記述し、またそれらに対して表明された回答や他の見解を検索して見ることができる掲示板の存在が最低限必要であり、それらが有効に利用されるように各案件を分野別や地域別などに整理して提供できるシステムに展開される必要がある。また、地域住民が地域コミュニティに対して提供可能な能力の提示を受け、逆に地域コミュニティ内の事業体で必要としている能力の提示を受け、両者を能力や分野別の人材供給・需要情報として提供するシステムや、さらに両者のマッチングをコーディネートするボランティア組織への連携を提供するシステムや、また地域の産品の販売可能情報と購入希望情報を受け、それらを産品の品目と売買値や販売場所を整理して提供するシステムや、さらに次に述べる地域通貨を発行する場合には地域通貨の発行及び決済システムなどまで展開されるのが望ましい。
4.地域通貨
地域コミュニティを構築するために地域通貨を発行する必要性がある。というのは、法定通貨では利益追求が自己目的化し、あるいはそのつもりでなくてもそういう経済システムにダイレクトにつながることにより経済システムに強く影響を受けたり、支配されたりすることになり、少なくとも結果的にコミュニティ活動を否定することになり、新たなコミュニティを活性化することはできないということにある。
ここで、地域通貨とは、①流通が地域に限定される、②利子が付かず、資本化しない、③流動性特権が大きくないという特性を持つものであり、基本的に広く浅い関係の中での「贈与」のやりとりによる互酬を促進するものである。
そもそも、社会的分業システム下で、産業としての生産(価値生産)をするためには、貨幣(資金)が必要であり、その貨幣を借りることに対してプレミアム(利子)をつけることが要求されれば拒否できない。というのは、貨幣はいつでも何とでも交換できるという高い流動性特権を持っていることで他の財に対して有利な立場にあり、その流動特権をもった価値の塊の所有が特権的な地位・権力を与える。利子(基礎利子)は貨幣がもつ流動性のプレミアムである。
これに対して、地域コミュニティ内での交換に供する交換媒体としての貨幣(地域通貨)においては、地域プラットフォーム上での情報交換により流動性が担保される仕組みであるので流動性のプレミアムは発生せず、また貨幣はその額面価値を維持することで、物財や情報は時間とともにその価値が低下するのに比して十分に利益があるので、利子をつけないのが自然であり、地域通貨に利子を付ける必要はない。場合によっては信頼に基づくことで貨幣のマイナス保持(「借金」ではない)も許容される可能性がある。また、地域通貨は交換媒体でしかないので、貨幣を所有することは経済的な権力や地位にとって特別な意味を持つことはない。
また、現行の法定通貨は、「お金が稼げる地方から資本を吸い上げてはもっとお金の増やせる地方へと注入するポンプのような働きをしている。」のに対して、「お金の流通範囲を地理的に限定することで地域経済の流動性を維持するのが肝要であり、地域通貨は地域で得られた所得収入が外部に流出することを止める。地域通貨があって、そこに流通を促すしかけが組み込まれていたら、大いに地方経済を活性化することができるであろう。」(⑥文献 マグリット・ケネディ「補完通貨としての地域通貨」)という認識があり、また、地域通貨は「地域の人財を掘り起こしその人財をネットワーク化するのに寄与し、ネットワークを広げ地域再生を具現化するために格好のツールである。」(⑥文献 NPO法人丹波まちづくりプロジェクト理事長 赤井俊子 「地域通貨が育むソーシャルキャピタル」)と認識されている。よって、この地域通貨を活用することで、人の能力や情報、資源などを掘り起こし、域内循環を活発化させることで自立性の高い地域を作ることができる。
また、「新たな地域コミュニティ」の形成によって、内部コストが安くなり、外部に対する競争力が高くなり、それにより外部に対して有利な交流手段を創出し、対外的にも活性化すると認められるが、産品やサービスが内部流通では安く、外部に出せば高く売れるのであれば、外部に売ろうとし、一物二価は失敗する。そこで、地域内での流通を図る地域通貨が必要である。コミュニティ内と外部の市場との間で異なる価格を持つ一物二価状態を成立させるためにも法定通貨とは別の通貨、地域通貨が必要である。
ただし、地域通貨を流通させようとして無理をするのではなく、地域通貨を必要とするシステムを構築することである。財やサービスの交換や各種支払に地域通貨を必要とするようにシステムを構築して、地域に根付いた経済活動をして行くのに、自らの地域通貨を持っていないと不便である状況を作り出すことが肝要である。逆にそういうシステムを持っていない地域では、法定通貨による交換に適した産物を多数持っていない限り、ひたすら貧困に陥るしかないということになる。
ところで、地域通貨はすでに多くの発行例が存在している。一般的な地域通貨は、需要量が少ない、地域が限定される、「互酬」と「商品売買」の間にあるなど、商業ベース(市場経済)に乗らない財・サービス(価値)の円滑な流通を促し、人びとの生活を豊かにするものと捉えられている。例えば、加藤敏春氏提唱の「エコマネー」は、「環境、福祉、コミュニティ、教育、文化等、今の通貨で表わし難い価値を、コミュニティのメンバー相互の交換により多様な形で伝える手段」であり、「市場流通に乗らない価値を円滑に流通(相互交換)させる手段(貨幣)」であるとしている。また、「LETS」のように大不況によって法定通貨が流通しなくなって、地域内で流通する通貨が必要とされる状況のもとで構想され、実現された地域通貨もある。
しかし、地域通貨は市場に乗らない価値に限定すべきではなく、さらに広く展開されるべきであり、地域コミュニティで創造・生産された「価値」をコミュニティ外の「市場流通」に乗せずにかつ円滑に地域で流通させる手段とすべきである。法定通貨が流通しているにも関わらず地域通貨が必要とされる状態は、地域プラットフォームで人と情報が結びつけられている状態で、地域プラットフォーム内で「価値」のやり取りを行う際には必ずかつ自然に地域通貨が用いられる状態が考えられる。具体的には、財やサービスの提供者は地域プラットフォーム上に売値をつけて公表し、買い手は買値をつけて公表し、その後地域プラットフォーム上で相対交渉によって決着をつける。このようにすることで、地域内で地域プラットフォームを利用して交流の緊密化・充実化が図られて行くとともに、地域通貨の必要性が高まるものと考えられる。かくして、地域プラットフォームが財・サービスの交換流通を効率的に行うための手段として利用され、その交換の仲介を地域通貨が果すことにより、地域コミュニティが活性化することになる。
この地域通貨は、地域コミュニティである基礎自治体自身によって発行するのが至当であり、また地域コミュニティ及びその地域プラットフォームは顕名性により「信頼」を確保しているものであり、それをベースに発行される地域通貨は口座(アカウント)間のデータのやり取りで決済するデジタル・マネーとしてのみ発行するのが至当である。さらに地域通貨の広い流通を促進するためには、自治体の支払の一部、少なくとも福祉事業を地域通貨で行うようにするのが好ましい。近年、福祉分野におけるボランティア経済(「互酬」と「信頼関係」)はその分野への民間事業者の参入、市場経済の浸透による影響が危惧される状況が生じつつあるが、地域通貨によって対抗することが可能なはずである。というより、地域通貨での流通に限定することで、利益非配分になるため民間事業者もNPLLC(非営利を定款に掲げた合同会社(=LLC:有限責任会社)と同様となる。そうして、地域通貨の流通が拡大することにより地域コミュニティの発展をもたらすことになり、地域コミュニティと地域通貨が相互に作用し合いつつ共に拡大発展する。また、地域通貨は地域コミュニティにおける一体感、(センスオブコミュニティ)を醸成する機能を果し、同時に地域コミュニティの拡大発展が地域通貨の流通を普遍化することになる。
地域通貨のより具体的な発行方式の例を説明すると、自治体に設立した地域通貨の発行機関に、福祉予算などの予算の一部を寄託し、また個人や企業に寄付(ふるさと納税も含む)を要請して寄付された法定通貨を発行機関に寄託し、発行機関は寄託された法定通貨を担保にして2倍の地域通貨を発行する。かくして、寄付者には寄付金額と同額の地域通貨を支給するとともに同額の地域通貨を福祉に用いることができ、福祉予算を倍増できるとともに地域通貨の発行量を確保することができる。寄付者は受け取った寄付額と等価の地域通貨を地元の産品やサービスの購入に使用したり、各種事業に寄付することができる。企業や商店は少なくとも地元産品については商品代金として地域通貨を受け取り、地産商品の調達・仕入れに地域通貨を使用することで安価に入手できるようにする。さらに、商店や企業や自治体関連職員の地元雇用に対して、労賃の一部を、臨時やシルバー人材に関しては全額を地域通貨で支払う。自治体への納税も地域通貨で納付できるようにする。地域通貨は法定通貨に換金することは可能であるが、寄付金に関しては換金不可能であり、寄付者は寄付金を越える金額の地域通貨のみ換金可能とする。
なお、地域通貨を実際に発行する際には、次の規制法をクリアする必要がある。そのために、少なくとも地域通貨はデジタル・マネーとして発行することになる。
 ① 前払式証票の規制等に関する法律(有効期限6ヶ月以内なら不適用⇔「構造改革特区」は
    無期限に)
 ② 紙幣類似証券取締法(電磁的記録には不適用)
 ③ 資金決済法(3条2項の発行概念)
 ④ 出資法(預かり金の場合)
 ⑤ 銀行法(為替取引と類似の場合)
5.行政及び議会の変革
 地域コミュニティとしての基礎自治体においては、行政を変革する必要があり、市民(私)に対して上から又は外からサービスを提供するというような統治機能は解消され、新たなコミュニティの運営機構として再構築される必要がある。行政、即ち個々ばらばらな市民の管理と必要な公的サービスの提供を行う統治機関は、地域コミュニティの確立によってその内部機関となり、市民に対して外的に対置された行政とは本質的に異なるものに変化することになる。
 行政は、コミュニティの「場」が機能する環境を作り出す事業を行うための常設の事務局として位置づけられ、具体的には例えば、首長と執行理事によって構成される執行理事会によって運営される。首長はコミュニティの代表であると同時に執行理事会の長であり、選挙で選任される。執行理事は首長によって選任され、各執行理事は事務局の各部をそれぞれ担当して統括する。なお、執行理事は担当部の事務方の長である部長を兼務可能である。首長が辞任すれば執行理事は同時に辞任する。
 基礎自治体の事務局における教育、福祉、産業、環境、財務及び総務などの各部の事務や事業も、国や県などの上部統治機関からの委託事務・事業はそのまま実施するほかないが、それ以外はすべて地域コミュニティにおける協働事務・事業として捉えなおす必要がある。
 教育-課外授業、臨時講師派遣、講演、学習塾及びカルチャーセンターの学習講座などを、無料また   低額で実施するボランティア組織を立ち上げる。また、教材のタブレット化を推進する。また、   空き教室の地域活用を図る。
   さらに、小・中学校の管理を地域で協働して行う学校運営協議会による「地域運営学校」(参考   三鷹市)を創る。
 福祉-社会福祉協議会、民生委員、児童相談所、各種事業所、ボランティア組織などの連携システム   の運用や資金配分の調整を図る。
 産業-商工(産品製造・流通)、土木建築、農林業などの団体の活性化を図るととともにそれらの相   互交流を図り、分野を跨いだ協働事業を模索することで町おこしの気運を上げる。
 環境-近隣地域住民との協議により、産業廃棄物の安易な処理場の地域内での営業を強く抑制する一   方、高度な処理による再資源化を達成する処理場を誘致する。ごみ発電、木質バイオマス発電、   耕作放棄地利用太陽光発電及び過剰電力による水素製造と水素発電システムを手がけ、原子力や   化石燃料に依存しない電力自給化モデル地域を目指す。
 財務-予算・決算の実務、市債管理、地域通貨管理を行う。
 総務-事務局の運営と地域プラットフォームの管理・地域協働を統括する。
 これらの各部の運営に際して地域通貨を用いて運用することで効率的かつ円滑に活発化できる。それは、ボランティア組織に対する補助金の支給をやめ、受益者に地域通貨を支給して受益者がボランティア組織に対して受けたサービスに対する返礼として地域通貨を支払うバウチャー制度を形成することで、ボランティア組織や福祉事業の活動の自由度を高め、活動の活性化を図る。また、ボランティア活動の受益者もできる限り地域通貨の支給を受けるのではなく、ボランティア組織などで働いて地域通貨を得、他のサービスを受けるために地域通貨を支払う。
 また、議会も当然のことながら変革する必要がある。議会は、選挙によって選任された執行理事と同数または二倍の議員(監査理事)によって構成され、コミュニティ成員と執行理事をつなぐコーディネータとしての機能と執行理事会を監査する監査理事会としての機能を持つ。議員(監査理事)は、コミュニティを形成する各個人・団体、特に担当部門に関して要望を聞き、活動状態を検証し、執行理事との間をコーディネートし、必要となる施策を考案する役務を持ち、コミュニティがコミュニティとして機能するか否かの死命を制する役割を奏する。そして、監査理事会としてコミュニティ活動の全般的な検証・評価を行うとともに首長と執行理事会に対して戦略的な政策・計画の提案検討を行うことが役務であり、必要な条例の制定、予算・決算の承認を行う。
 議員(監査理事)は、監査を実効的に行うため執行理事会にオブザーバとして参加し、意見を表明する。逆に、議会が各年執行理事会で運営された事業に関して検証・評価を行う際に、議会に首長及び執行理事がオブザーバとして参加し、意見を表明することができる。また、議会は各年執行理事会または個別執行理事の信認・不信任を議決し、不信任の場合は首長・執行理事は辞任し、首長不信任の場合は首長選挙を行うが、同時に不信任を議決した監査理事会(議会)も解散して議員選挙も行う。予算は執行理事会で編成され、議会に提示されるが実質フリーパスで、予算における支出の中身を監査の開始データとして把握し、予算執行過程を追認検証し、決算は実体に即して厳格に検証を行うとともに、全般的な戦略との整合性を検証する。
6.おわりに
 以上のように「新たな地域コミュニティ」を地域プラットフォームの形成と地域通貨の発行により構築することにより、またそれに適合するように行政と議会を革新することにより、地域社会を活性化し、グローバル金融資本主義の金融システムが危機状態に陥ったとしても安定した自立的な地域経済を維持することができる。
 尤も、地域コミュニティは当然のことながら外界に対して絶縁・孤立しているわけではなく、地域コミュニティのまわりには、他の地域コミュニティ、生産企業コミュニティ、社会活動コミュニティなど、多種多様なコミュニティが存在しているが、地域プラットフォームを構築することでそのネットワークを介して広く連携しており、それらを介してグローバルな世界と連結している。但し、地域コミュニティの独立・自治が原則であって、広域統治は地域では解決できない広域的課題の解決の必要性に応じたものに限定されるべきである。広域統治機構は、地方文化や経済圏の広がりに対応した地方政府(都道府県あるいは将来成立するであろう州)、国家統治機構、及び国際機関へと広がって行く。なお、道州制はこの地域コミュニティから成る基礎自治体が確立しないと、有効に機能するものとして成立しないものと考えられる。

資料本
 ①森野栄一 『自立経済と貨幣改革論の視点』 ぱる出版 2014年
「情況」掲載論文集 ゲゼル研究会代表 WAT清算システム
 ②斉藤賢爾 『これでわかったビットコイン』 太郎次郎エディタス 2014年
       『インターネットで変わる「お金」』 幻冬舎ルネッサンス新書 2014年
        iWAT 一般社団法人アカデミーキャンプ
 ③B・リエター 『マネー崩壊-新しいコミュニティ通貨』 日本経済評論社 2000年
      元ベルギー連邦中央銀行ユーロ設計実施責任者
      リアルマネー(お金)=清算→関係を絶つ
      コミュニティマネー =贈与→関係を繋ぐ可能性
 ④加藤敏春 『エコマネーの新世紀』 勁草書房 2000年
        法定通貨で表わし難い価値を、コミュニティ内で相互に交換する手段
 ⑤嵯峨生馬 『地域通貨』 NHK生活人新書 2004年
       『プロボノ-新しい社会貢献新しい働き方』 勁草書房 2011年
       日本総研 アースデイマネー設立 サービスグラント代表理事(プロボノ)
 ⑥岡田真美子 編著 『地域再生とネットワーク』 昭和堂 2008年
      兵庫県立大学環境人間学部教授
「日本型地域ネットワークと地域通貨」研究グループ長
NPO法人干姫プロジェクト理事長 IT地域通貨「干姫」
ツールとしての地域通貨と協働の空間づくり
 ⑦伊藤亜紀 『電子マネー革命』 NHK出版 2010年
 ⑧西部忠 編著 『地域通貨』 ミネルヴァ書房 2013年
 ⑨鈴木 健 『なめらかな社会とその敵』 勁草書房 2013年
 ⑩鬼塚健一郎 『農山村地域コミュニティの再構築』 農林統計出版 2015年
        SNSを活用した
 ⑪丸太一 『ウェブが創る新しい郷土』 講談社現代新書 2007年
 ⑫庄司昌彦 他 『地域SNS最前線』 ASCII 2007年
 ⑬丸太一 他 『地域情報化 認識と設計』 NTT出版 2006年