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資本主義社会から情報社会への経済システムの移行

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資本主義社会から情報社会への経済システムの移行

 第二次世界大戦後の資本主義経済システムは、ケインズ-フォード・システムとして特徴づけられる。ケインズ-フォード・システムは、
 ① 絶えざる成長路線(そのための金融・財政政策及び結果としての緩やかなインフレ)
 ② 絶えざる技術革新・生産性向上→相対的コスト低下→利潤率確保
 ③ 労働分配(厚生・福祉を含む)の維持・向上と対外市場拡大→成長に見合った需要の拡大
による拡大型安定循環システムであり、この経済システムが成立している場は、貨幣制度、所有制度、経済運営、労働再生産、社会保障、公共財供給の管理が国家により行われる国民経済である。
 このケインズ-フォード・システムの国民経済が‘70年代から機能不全に陥った。その時系列的な経緯、即ちオイル・ショックを契機とするコストアップインフレ(本来は一時的な影響で済むはずのもの)によって機能不全に陥って行った経緯は知られているが、その本質的な原因はあまり明確でなかった。
 ケインズ-フォード・システムの機能不全が起こった原因は、情報化・グローバル化の進展によるものである。すなわち、
  情報化の進展による価格の速やかな低下傾向を原因とする利潤率の低下(オイル・ショックは一契  機となったが本質的な原因ではない)。
 →グローバル化(海外投資・生産)でコスト低下を図って利潤率確保を意図。
 →グローバル化で低コスト商品の流入によりデフレ傾向。
 →利潤率低下。
という循環によってもたらされたものである。
 情報化は、利潤率の低下と、東西対立即ち社会主義経済体制の崩壊の、両方の原因となっている。新自由主義者(市場原理主義者)は、社会主義経済体制の崩壊を資本主義的自由主義の勝利であると錯覚し、情報化の進展に伴う利潤率低下によるケインズ-フォード・システムの崩壊を新自由主義で乗り越えられると誤認したのである。
 新自由主義の理念と政策の要点は、
 ① 経済を自由競争市場にまかせることで資源の最適配分を実現することができるという一般均衡  論。
 ② 国民経済の管理を官僚制によって行うと官僚制の肥大化による弊害と非効率をもたらすため、  規制緩和を行い、自由競争を確保することで効率化が図られるという規制緩和政策。
 ③ 経済の自由化と市場経済のグローバル化をさらに推進すること、貿易だけでなく特に金融の自  由化を推進することで、持続的な経済成長を達成することができるとするグローバリズム。
という点にある。
 新自由主義者は、ケインズ-フォード・システムにおけるケインズ的な政府主導の財政・金融による有効需要創出政策(景気制御)と厚生経済政策(東西対立により必要)の両方を否定した。これはスタグフレーションによりケインズ主義の有効性が消失するとともに東西対立が解消したことによって実現可能性を持つに至ったものである。
 しかし、新自由主義がもたらした結果は次のようなものである。すなわち、格差の拡大と非正規雇用の増大による社会的不安定要素の拡大と、金融商品に対する投機過熱による金融破綻と世界的大不況の発生である。何故そうなったかといえば、資本増殖の源泉たる利潤率が情報化の進展によって低下しているにも関わらず、市場原理主義的発想による規制緩和と投機的システムによって無理矢理利潤率を確保したのであるから、弱者にそのしわ寄せが来、過熱した投機が破綻するのは当然のことである。
 なお、新自由主義によって情報化・グローバル化が推し進められたことに関しては、現状では前提条件が十分に整わないまま、すなわち資本主義的経済システムのままでの激変によって負の面が強く現れたが、それ自体としては歴史的に肯定的な意味がある。また、この肯定的な面があるからこそ新自由主義が現実化したと言える。
 それでは、新自由主義の後の新しい資本主義は、どのような資本主義として成立可能かということが課題となる。資本主義が存続するためには、情報化の進展による利潤率の低下傾向に抗して利潤率を確保して経済成長を継続する体制を築くしかない。
 資本主義体制で経済成長が必要な理由は、資本投下→利潤回収→資本の拡大再投下という資本の際限ない自己増殖作用のためである。改めて「資本」について検討すると、資本は物に化体した価値の集積体であり、それ故に投下された資本は生産点を支配して生産の果実を独占し、生産した商品がその価値で売れることで投下資本に対して利潤を生むことができ、そうして拡大した資本を再投下するという循環を繰り返す。そのため、資本主義体制においては相当の利潤が確保され、資本が拡大することが予想されなければ資本は再投下されず、生産が停止して不況となり、失業が生じることになる。このように資本の拡大再投資を存立条件とする資本主義経済は経済成長なしでは成立し得ないのである。
 情報化が進展している状況下で経済成長を継続するには、利潤率の低下傾向に対して絶えざるイノベーションを行って利潤率を確保するような体制を築くしかない。しかし、情報化が進展することで利潤率の低下傾向がより一層強まることから、ますます目が粗くなって行くザルで水をすくうようなものである。
 一方、ケインズ-フォード・システムの崩壊に直面して、上記新自由主義の市場原理主義に対抗して、調整理論によるネオ・フォーディズムという新しい統合を生み出そうとするレギュラシオン派の理論がある。
 レギュラシオン理論では、資本主義の内部に、資本のダイナミズムが賃労働者の生活条件を改善すると同時に勤労者社会を発展させるような変容の可能性が存在していることを認めている。レギュラシオン理論は、この資本主義の存続を前提とした理論の中で、フォーディズムは、労働再生産費用の長期的低下傾向によって可能であったが、集合的消費費用の急速な増大によってそれが逆転してしまい、その対策によりインフレがもたらされて破綻したとする。これに対して、消費様式を集合的消費手段に集中・再構造化し、新しい労働編制様式にて情報化原理によって費用低下を図ることで、ネオ・フォード主義の実現が可能であるとするものである。
 このレギュラシオン派の具体的な対策としては次の提言がなされている。
 ① 年金基金の機関投資家としての挙動から労働者持株制度による企業統治へ。
 ② 国家による社会的基礎の構築と景気調整と労働流動性の保証。
 ③ 各種社会保障制度から最低所得保障制度へ。
 これらの提言自体は多くの示唆に富むが、これらの対策が資本を前提とした成長経済と矛盾することなく実現可能であるかどうか疑問である。例えば、労働者持株制度による企業統治は、労働者としての立場と資本としての立場の自己分裂的矛盾に陥る可能性が高いと思われる。安定(低)成長状態での資本主義的な厚生経済は存立可能かという問題であり、資本主義ならざる「資本主義経済」は成立するのかという基本的な問題がある。
 翻って、経済成長なしでも失業がなく経済が安定して回る経済体制(システム)はどうすれば成立するかという問題を建てることができる。
 そのような経済システムにおける企業形態の具体例としては、目的合理的に結集した人間の共同体的な企業体が商品企画を立ててその商品に対するネット回線による予約注文、若しくは高精度のマーケット・リサーチにより得られた需要量に基づいて生産計画を立て、生産に必要な資金を確保し、生産企業体と連携して生産を行うことによって、生産した商品をその価値に対応した価格で販売することができ、必要な経費を賄うととともに適正な低い利潤が得られるという企業形態が基本となる。なお、上記生産企業体も同様の企業形態をとり、これら企業体群が有機的に結び付いて構成されている生産組織網が社会の全体的な生産構造を構成する。こうして、情報化の進展により需要予測の精度が高くなるとともに生産を需要によって制御することが可能となり、また生産に必要な資金は低金利で調達可能でかつその利子は生産経費を形成するものとなるので、提供される資金が、利潤を前提として自己増殖する「資本」である必然性は全くない。実需要や高精度の需要予測が困難若しくは不可能な生産品目に関しては、新自由主義経済下で発展した高度なデータ処理に基づく保険制度を適用することができ、その保険に要する費用も生産経費として生産を行えば良く、生産保険制度によって社会的な生産機構の安定性が確保される。
 また、生産(供給)が消費(需要)によって規定されるために、生産者である企業体は消費者と直結されている必要があるが、情報化の進展がそれを可能とするとともに、生産者と消費者をより直接的に媒介する組織体の発展が見込まれる。現状でも従来の商品の市場・流通業界に取って代わって、通信販売企業とJP(郵便局)や大和運輸(クロネコヤマト)などの物流企業が連携した、通信物流企業複合体が盛況を呈するようになってきているが、さらに生産者と消費者を直接結びつける産地直売方式と同様の方式をとった企業体や媒介組織が一層広範な商品に適用されて発展することが見込まれる。
 このような企業体による生産システムは、適正価格で売れる商品の生産に労働が適切に配分される非資本主義的な経済システムを構成し、この非資本主義的経済システムが資本主義経済システムの中で徐々にその比重を高めて行くことで経済成長なしでも経済が健全に回るようなシステムに置き換わって行くものと考えられる。
 最後に、この移行過程における情報社会に向けての労働・社会保障制度について検討しておく。情報社会に向かう過程でこのような経済システムを実現するについては、労働の流動性を高めることが必要な条件である。そこで、次のような制度が必要となる。
 ① 労働の流動性を高める制度を確立する。現在、経済運営の主導権を持っている経営者(経団連)は、グローバル経済下の国際競争力の確保やフレキシブル生産に対応する必要性から労働の流動性を高めることを強く要求しているが、経営者(経団連)が労働の流動性を高めることを要求するのであれば、すなわち自らの企業活動に寄与した労働者を必要に応じて自由に首を切って失業させたいのであれば、雇用していた労働者が安心して新しい労働環境に入って行けるようなシステムを経団連として自ら構築する責任がある。新自由主義的経営者・資本家は、自らの生産要件である労働者に対する責任を一切果すことなく、政府に押し付けておきながら、政府の縮小を要求し、減税を要求しているのが現況である。
 労働の流動性を高めるには、デンマークにおける「フレキシキュリティ」(①低水準の雇用保護、②手厚い失業手当、③高水準の積極的労働市場政策、④参加率の高い生涯学習)がもっとも参考になる。
 労働の流動性を高めるため、次の最低所得保障制度と組み合わせて、失業した労働者のスキルアップや労働配置のミスマッチングを解消できるように、優秀なケースワーカーによる失業者や労働者に対する適切な指導・誘導と職業訓練によって社会的に必要な労働能力を養成することが必要であり、その様な体制の構築が先決要件である。
 ② 最低所得保障制度を創出する。各種公的年金や生活保護などの社会保障制度を、最低所得保障制度に集約して単純化するとともに、他は私的年金制度として切り離すことで、全ての人に対して最低限の人間的な生活状態を保障するとともに公的負担の軽減を図る。なお、当然のことながら最低賃金は最低所得保証額よりも高くなるように設定される。また、この最低所得保障制度と一体として「労働の義務」を強力に指導し、労働による人間形成を図ることが必要であり、そのためには各労働者の環境や能力に応じた本当に適切な指導を行うことができる訓練されたケースワーカーやインストラクターが必須で、最も重要である。
 このように具体的な対策に関してはレギュラシオン派と同様のものとなるが、レギュラシオン派は資本主義を買いかぶっている若しくは見誤っている点で、恐らく資本主義的な景気対策と賃労働者の保護の間で矛盾に陥ることが予想される。